守りたいもの

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俺はその足で受付に向かった。 定時は過ぎたが、藤森が客の相手をしているので、ロビーの陰で少し待った。 客がカウンターから離れると、代わって俺が歩み寄った。 「お疲れ。」 「あ、成瀬さん。お疲れ様です。今日は本当にお疲れさまでした。」 な、普通すぎる。 こいつに普通の対応されると、逆に怖い。 「…ああ。お前、もう上がれんの?」 「はい。そのつもりです。」 「じゃあさあ、今日、飲みに行かねえ?」 「………。」 なんで、沈黙なんだよ!? 藤森は目を丸くしていた。 俺、そんな驚くこと言ったか? けれど、 その後、笑ってはっきり答えてくれた。 「うん!行く!!」 ビックリさせんなよ!! しかも、その可愛げのありすぎる言葉…。 飲みに誘うだけなのに、俺の掌には尋常じゃないほどの汗が滲んでいた。 待ち合わせて、 居酒屋に入って、 グラスを合わせた時には、 藤森はいつも通りの藤森だった。 「てか、成瀬さん、やるじゃん!!見直した!!」 そして、メチャクチャ可愛い笑顔で言ったんだ。 「お疲れさま。」 それだよ。 それ。 誰でもないお前に、 そうやって言って欲しかった。
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