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お昼休みになり、最初に池口さんが事務所を出た。
その後、琴ちゃんと連休中のことをお互いに話していた時だった。
事務所に見慣れない人が入ってきて、まだデスクで作業している部長に詰め寄った。
「秀ちゃん!!」
…え。
……秀ちゃん!?
あまりに驚きすぎて、琴ちゃんとの話も不自然すぎるくらいに途切れてしまった。
隣で琴ちゃんが
「あ、…ゆい先輩…。」
私を見ながら躊躇いがちに小さく言った。
部長を"秀ちゃん"と呼ぶその人は、
若い女の子なんだけど、誰だかわからない。
胸に社員証を下げているからうちの社員には違いないと思うけど、
…こんな子いたかな?
その女性は一度私と琴ちゃんに目を向けたけど、たいして気にする風でもなく、部長に向き直って早々と切り出した。
「ねえ、いったいどうなってんの?一体いつ、異動させてくれるの!?…ねえ、秀ちゃん、聞いてるの!?」
…異動?
それに、"秀ちゃん"て…。
…以前にもあった。
でも、勝野課長の時の"西島君"なんて比じゃない。
その親しげな呼び方は、部長とのどんな関係を表すのか私にはわからなかった。
けれど、私の横でそわそわとし始める琴ちゃんは、その存在を知っているかのようだった。
私はわけもわからず、
ただ、
嫌な予感を知らせる警報のかすかな音を胸の奥で聞いていたのかもしれない。
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