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ドアの向こうに誰がいるのかはわかっていた。
インターホンの後にドアを叩く音、
「開けてくれ。彼女を迎えに来た。」
西島部長の低く、しゃがれた声がした。
この時間のインターホンに、部長の声、
俺よりも彼女の方が驚いていた。
「…え?…どうして…?」
そして、見る間に彼女の顔色が青くなる。
まるで、外の声に怯えているようだった。
俺は玄関に向かい、ドア越しに部長に声を掛ける。
「…彼女はあなたが来て、安心するどころか怯えてますよ?」
「…ゆい。帰ろう。」
部長の静かな声がして、
振り返ると
彼女は屈みこんで、嗚咽を上げるほど泣いていた。
それを見て、
俺はゆっくりと鍵を回した。
滑り込むように入ってきた部長はまっすぐに彼女の元へ向かった。
うずくまる彼女を包むように抱き締めた。
「…帰ろう…ゆい。」
部長の小さな声は、彼女の嗚咽に紛れて消えそうだった。
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