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「…ゆい、悪かった。どんなことでもゆいが納得いくまで何度でも、いくらでも話す。…だから、一緒に帰ろう。」
あの西島部長の声が震えていた。
彼女は言葉で返事をすることが出来ずにいたが、嗚咽で体を揺らしながら、震える細い指で部長の腕をしっかりと掴んでいた。
それを確認した部長は今にも崩れてしまいそうにさえ見えた。
部長は何度も何度も彼女の涙を拭いた。
そして、部長は彼女を支えて立ち上がると、無意識にか意識的にかベッドに目を向けた。
枕とタオルケットが脇に落ち、シーツがよれた乱れた空間。
俺は迷っていた。
あったと言うか
なかったと言うか。
「…俺たち……。」
そこまで言いかけて、部長に遮られる。
「どんな事があったとしても、それが真実ならその事実もゆいのことも受け入れるつもりだ。…自業自得だからな。だから、本当のことだけを教えてくれ。…嘘は、ゆいのことも、俺も、…お前のことも苦しめるだけだ。」
返事が出来なかった。
どんな嘘を吐いたって
この男には
敵わないんだと
思い知らされた。
ならば、
彼女の想いをこいつに教えてやろう。
「…俺は無理やりにでも欲しかったけど…彼女は…好きな人以外とは繋がらないみたいですよ。覚えてなくても、記憶がなくても、…それは確信してるみたいです。」
部長は黙って聞いていた。
彼女の目から再び涙が流れる。
「…そうか。俺のせいで迷惑を掛けてすまなかった。…本当に…申し訳なかった。」
部長は彼女を支えて玄関に向かう。
彼女は玄関を出る前、
俺に小さく頭を下げた。
玄関が俺の目の前で静かに閉まる。
繋ぎとめようとした彼女との何かが途切れる。
"…自業自得ね。"
"…自業自得だからな。"
二人で同じこと言って、
すれ違ったように見えた二人は
そうではなかった。
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