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手帳に挟まれたあの手紙。
「あの手紙は全くの"偽物"だ。俺は手帳の同じ場所に"本物"を挟めていたんだ。
…ゆい、覚えてるか?ゆいの誕生日の前日にゆいがこの部屋に残してくれた俺へのメモを。
俺が連日の接待に疲れているだろうと、俺の体を気遣いながらそれでも会いたい、わがままだけど会いたいと綴ってくれたあのメモのような手紙。
お前が書いたあの"会いたい"という文字が嬉しくて、愛しくてその手紙を手帳に挟んで持ち歩いていた。
それを彼女に見られたのか、いつの間にかすり替えられていた。
…俺の大切なものだったのに。
これはアイツの企みだ。現に俺たちはこの手紙に踊らされてこんな目に遭ってる。
ゆい、月曜にはお前の目の前でもう一つのわだかまりを除いてやる。…必ず。
…ゆいの気持ちに気付いてやれなくて、すまなかった…。
俺の身勝手な傲慢さを…許してくれ。」
ゆいの目からまた涙が溢れる。
もう、涙が枯れそうなくらい泣いたのではないのかと思っていたのに。
…ゆい。
手を伸ばしてゆいを抱きたいのに、
それが少し怖かった。
ゆいに拒絶されるのが
怖くてたまらなかった。
すると、
少し離れて座った場所からゆいが立ち上がり、俺のすぐ隣に座り直し、俺の腕に細い腕をきつく絡ませた。
俺の腕にすがり、
体を寄せて、
俺の胸に顔を埋めた。
ゆい。
俺は力いっぱいゆいを抱きしめた。
失いかけたゆいの体温は
俺の腕の中に
確かに戻ってきた。
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