2111人が本棚に入れています
本棚に追加
部長と室井を乗せて走る車内で、俺は二人の想いに触れた気がした。
痛々しいほど傷ついた二人は、
また、
痛々しいほどお互いを求め合っていた。
赤の他人であるそんな二人をバックミラー越しに見るだけで、俺の心は震えていた。
ほとんど何も言わずに二人を降ろした後、自宅に戻り、そのままベッドに横になる。
眠気があった訳じゃない。
俺はそのまま夜明けを迎え、時間を見て、アイツに電話を掛けた。
…藤森の声が聞きたかった。
『…もしもし?こんな早くにどうしたの?』
少しまどろんだ声が愛しく思えた。
迷惑だろうとは思ったが、俺は夜中に起こったこの出来事を藤森に話して聞かせた。
最初はド派手に驚いて、越石のこともメッタ斬りにしていた藤森が急に黙り込む。
『…でも、人を好きになる気持ちはどうしようもないもんね…。越石君はそれを想う相手には繋げられなかったけど…彼にもいつか、いい人が見つかるといいね…。』
藤森が言うと、全く嫌味がない。
越石に対して責める気持ちしか持っていなかった自分が馬鹿らしくなる。
「…ああ、そうだな。」
俺も素直にそう思えた。
「…なあ。藤森…。あの二人の関係は…どこまで深いんだろうな?」
藤森が少し黙って答えたのは
『…どこまでも深いんだよ。…見えないくらい。見えないくらい…深いんだよ。』
それから少し話して電話を切る間際、藤森が言った。
『…成瀬さん、ゆいのために…ゆいと部長のためにありがとう。』
なあ、藤森。
今日、俺はあの二人を見て、
お前を想ってたんだ。
あの二人が築く関係を
俺たちも築けねーかな。
今、俺の想いは喉元まで出掛かってる。
本当は、今すぐにでも言いたいくらいだ。
けど、今は
お前の頭ん中は
親友の室井のことでいっぱいだろう。
だから、
あの二人が上手くこの件を片付けたら
俺はこの気持ちを伝えよう。
お前の頭ん中を
お前と俺のことで
いっぱいにしてやりてえよ。
最初のコメントを投稿しよう!