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依然としてゆいを見つけられず、終電に間に合っていたらアパートに帰っているかもしれないと思い、マンションに戻って、車の鍵を取り、車に乗り込んだ。
携帯はコールを続けたままスピーカーにした。
車を出してすぐ、コール音が途切れた。
俺は急ブレーキで止まり、携帯を慌てて手繰り寄せる。
「ゆい!ゆい!?どこにいる?帰って来い。迎えに行くから。どこだ?どこにいる?」
落ち着かなければと頭では思うのに、口からは勢いよく言葉が飛び出した。
ゆいは返事をしない。
…頼む。
…声を聞かせてくれ。
「…ゆい?大丈夫なのか?」
不安と意味のない優しさを混ぜて語りかける。
少し間を置いて聞こえた声は
待ち望んだゆいの声ではなかった。
「…もしもし。」
声の主はどういうわけか、営業の越石だった。
越石からいきさつを聞くと、偶然が重なったものだった。
こんな偶然。
ゆいを見つけたのが顔見知りで良かったのか、悪かったのか。
幸か不幸かと言われれば、
俺以外の誰かが見つけんたんだ。
それは不幸だろう。
ましてや、越石はゆいに好意を寄せている。
電話を一方的に切られ、その後は電源を切られ、繋がらなかった。
恐れていた絶望が俺を暗闇に突き落とす。
ゆいが酒を飲んだ。
ゆいが吐いた。
ゆいを着替えさせる。
ゆいに触れないでくれ。
頼む…。
ゆいを
俺に
…返してくれ。
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