自業自得

3/39
前へ
/39ページ
次へ
どんなに拳を握っても どんなに拳を振り下ろしても ゆいの側には寄れなかった。 …自業自得。 思えばあの時から。 須藤の娘が事務所に来るようになって、 ゆいが俺に聞いた時。 『彼女は誰?』 人のことに詮索しない、余り踏み込んでこないゆいがどんな思いで俺にそう聞いたのか。 それなのに俺は彼女を話題にするのが嫌で、話を切り上げるつもりで言ってしまった。 『ゆいにも幼馴染がいるだろ?』 その時は気にもしなかったが、 この一言でゆいが口をつぐんだばかりか、心まで閉ざしていたなんて。 それに加えて、社内の噂。 ゆいはあの噂の中で、いつも通りに仕事をこなしながら、一人、どんな思いで過ごしていただろう。 どんな境遇でも俺たちなら、 ゆいなら大丈夫だと 高をくくっていたんだ。 彼女のことも、 接待の帰りに彼女に会ったことも、 俺にとっては言う必要がないことでも ゆいには説明が必要だったのに。 自分の傲慢さをいくら後悔しても仕方ない。 失ったら、 もう、取り戻すことは出来ない。 ゆいを… 失うわけにはいかなかった。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2111人が本棚に入れています
本棚に追加