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どんなに拳を握っても
どんなに拳を振り下ろしても
ゆいの側には寄れなかった。
…自業自得。
思えばあの時から。
須藤の娘が事務所に来るようになって、
ゆいが俺に聞いた時。
『彼女は誰?』
人のことに詮索しない、余り踏み込んでこないゆいがどんな思いで俺にそう聞いたのか。
それなのに俺は彼女を話題にするのが嫌で、話を切り上げるつもりで言ってしまった。
『ゆいにも幼馴染がいるだろ?』
その時は気にもしなかったが、
この一言でゆいが口をつぐんだばかりか、心まで閉ざしていたなんて。
それに加えて、社内の噂。
ゆいはあの噂の中で、いつも通りに仕事をこなしながら、一人、どんな思いで過ごしていただろう。
どんな境遇でも俺たちなら、
ゆいなら大丈夫だと
高をくくっていたんだ。
彼女のことも、
接待の帰りに彼女に会ったことも、
俺にとっては言う必要がないことでも
ゆいには説明が必要だったのに。
自分の傲慢さをいくら後悔しても仕方ない。
失ったら、
もう、取り戻すことは出来ない。
ゆいを…
失うわけにはいかなかった。
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