2111人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女の唇にもう少しで触れそうな時、
彼女がそれを避けるかのように顔を逸らした。
…え。
寝ているはずで、
偶然にそうなっただけなのに。
まるでそこには、彼女の意思があるかのように思えて、
それが無性に俺を苛立たせた。
そして、彼女は閉じたままの濡れた瞳で呟いた。
「……秀一…さん…。」
…こんな状況の中に身を置いて、
こんな目に遭わされて、
どうしてアイツの名前を…?
苛立ちに代えて、怒りと嫉妬が込み上げる。
「…俺は、"秀一"じゃない。あんな奴のこと…忘れて下さいよ。」
俺はごちゃまぜになった激しい感情に任せて、彼女の首筋にキスを落とす。
彼女の体温と共に彼女の鼓動を感じた。
彼女の何とも言えない、優しい匂いが鼻をくすぐった。
理性など、
かけらも残っていなかった。
俺は一度だけ、彼女を抱く夢をみたことがある。
最後までは抱けない儚い夢。
何度も何度も夢の続きがみたくて強く望んだが、
それ以来、彼女が夢に現れてくれることはなかった。
何度も彼女を夢見ることを夢見て、
俺は彼女の幻を相手に
もがいていた。
何度も。
何度も。
その彼女が、
今、俺の見下ろす下にいる。
俺はタオルケットをベッドの下に除け、
上がりかけたワンピースの裾に再び手を掛けた。
最初のコメントを投稿しよう!