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成瀬さんの笑った顔がいつもと違って、ほんの少し怖かった。
私は顔をそむけてキッチンの二人に目をやった。
ゆいと部長は相変わらずのラブラブぶりで、見ているこっちが何だか温かい気持ちになる。
まるで、あのキッチンには、
こことは違う時間が流れているように
穏やかで、優しい空間が広がっていた。
「…いいなあ。あの二人。…憧れちゃうな。」
私は成瀬さんのニヤリと笑った顔も忘れて、独り言のように呟いていた。
「…ホント、マジでいいよな。」
…え。
独り言のつもりが成瀬さんからの返事があってビックリしてしまった。
自分の発言が恥ずかしくなって、慌ててつけ足した。
「…あ、…で、でも。私とゆいじゃ、全然違うし。あんな風にはなれないんだけどね。」
「…まあな。お前と室井じゃ全然違うよな。」
成瀬さんにそう肯定されて、心が静かに沈む。
…そんなこと。
…言われなくたってわかってる。
だけど、
成瀬さんは私の心を沈めたいわけじゃなかった。
「…なあ。」
その一言で、私を自分に引きつける。
「…俺だって、部長とは全然違う。…部長にも…あの二人にも憧れてるけど、俺は部長みたいにはなれねーよ。
俺たちはあの二人みたいにはなれねーけど、あの二人の間にあるものを、お前となら見られるかもしれねえ。
なあ、藤森…。
俺たち、
真剣に
付き合わねーか?」
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