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「…ゆい、さっきの話だが…。」
そう言いかけたところでゆいの表情が曇り始める。
…一緒に住むことにそんなに抵抗があるのか?
ゆいの表情は俺を一気に不安に染める。
「…ゆい、部長と一緒に住みたくないの?…エッチすぎて嫌?嫉妬深すぎてイヤ?…激しすぎて…イヤ?」
「…ち、違うよっ!!」
ゆいが反論する。
そして、唇をギュッと結んだ後、それをほどいて話し始めた。
「…一緒に住むことが嫌なんじゃないの。…秀一さんとは…一緒にいたいし。
でもね、私の父がね…。私の父って、私がお嫁にいくまで…本当は仕事も自宅から通って欲しかったみたいなの。…今の会社に入って一人暮らししてるけど、母と兄にも協力してもらってやっとで父を説得したんだから。
…そんな父が、同棲なんて許してくれるかな…?」
ゆいは言い終わって小さく息をついた。
「てか、同棲するのにお父さんのお許しが必要なわけ?」
「…普通は…いらないのかな。…でも、私はなんか、父に内緒のままは出来なくて。…それに…一緒に住むのって…なんか…責任を感じる。」
そこまで聞いて、俺の胸の中がじんわりと熱くなる。
ゆいは同棲を拒んでいるわけではなかった。
ゆいにとって俺と暮らすことはそんなに軽く考えられることではなかったんだ。
一緒に暮らすことの意味の重さを考えて、親父さんにも認めて欲しいと思っている。
ゆいと一緒にいたいと思い、自分の不安を取り除きたくて、一緒に暮らそうと言っていた自分の方が
よっぽど子供だった。
俺は成瀬たちの存在も気にせずゆいの手を取った。
「…親父さんに認めてもらおう。ちゃんと挨拶に行くから。そしたら…一緒に暮らそう。」
「…はい。」
ゆいはしっかりと応えてくれた。
「…部長。ゆいのお父さん、手強いかもね。さすがの鬼部長もやっぱり怖い?」
「…怖くなんてないさ。ゆいをこんな風に育ててくれたんだ。怖いどころか尊敬するよ。」
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