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俺の足は自然と掛け出す。
胸の奥で心臓が嫌な音をたてていた。
アパートの階段を勢いよく駆け上がり、革靴の硬い音がアパート中に響いた気がした。
そのままの勢いでドアノブに手を掛けてドアを開ける。
「ゆい!!」
開けたと同時に叫んだすぐ先にゆいの姿と玄関のたたきに直立したままの男がいた。
「…し、秀一さん!?どうしたんですか!?」
ゆいの予想外の反応にこっちが拍子抜けした。
「…あ、ああ。ゆい、こちらは…?」
顔を見れば、下の階の学生だ。
「あ、下の階の…、何か渡したい物がって…。」
…渡したい物?
俺がその男の手にしていた小さな紙袋に目をやると
男はそれを自分の後ろに素早く隠した。
「…それは、すみません。」
俺が作り笑いを浮かべると、男は慌てた様子で後ずさる。
「…あ、ま、また…来ます。」
男は逃げるように出て行った。
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