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男が出て行ってすぐに、ドアの鍵とチェーンを掛けた。
そして、玄関にそのまま座り込む。
「…秀一さん?どうしたんですか?」
ゆいの少しばかり能天気な言葉が俺を苛立たせる。
「…どうもこうもない。…ドアを開ける前にちゃんと確認したのか?」
「…秀一さんかと思ったんですけど、覗き穴からちゃんと確認しましたよ?下の階の方で、渡したい物があるって言うので…。」
「…ゆいも見ただろ?アイツの渡したい物が何だったか知らないが、ゆいには渡したいが俺には見られては困る物だ。…何だろうな?わかるか?」
「…秀一さんに見られて…困る物?」
「美味しいお菓子や食べ物じゃあないだろうな。…あんな男に下着でも渡されたらどうする?下着じゃなくてももっと妖しいものかもしれない。」
そこまで言って、やっとゆいの表情が強張っていく。
…遅い。
「…え。…そんなこと…。」
「『え。』じゃない。だいたいアイツは学生でゆいは社会人だ。全く生活スタイルも時間も違うのに週に2、3度も会うなんてこともおかしい。考えてもみろ、他の住人とそんなに頻繁に会うのか?」
ゆいは口元に手を当てたまま瞬きをして、小さく首を振った。
「…ゆい。何かあってからじゃ遅いんだ。…別に子供をみごもってるわけじゃないが、お前一人の体なんて思わないでくれ。」
叱ったつもりはなかったが、ゆいは叱られた子供のように涙を溜めた。
「…飯は出来てるのか?楽しみにしてきたんだ。」
ゆいは頷いた。
「…飯を食ったら俺のとこに来い。週末までここには帰らないつもりで準備するんだ。」
「…はい。」
ゆいが返事をしたので、俺は重たい空気を拭うため、ゆいの顔をちゃんと笑顔で覗きこむ。
「…お腹空いた。」
「…すぐ、用意します。」
ゆいは無理やり笑顔をつくってキッチンへ入っていった。
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