2212人が本棚に入れています
本棚に追加
部長の話しを聞いてゾッとした。
話しを聞いた今となっては、
アパートの前で彼が言う
『よく会いますね?』の顔を思い出すだけで背筋が冷たくなった。
部長と一緒に暮らすことを真剣に考え始めた矢先の今日の出来事と、玄関に座りこんだ部長を思うと、もう躊躇してる場合じゃなかった。
私は携帯を手に取り、どうしようか迷ったけれど、自宅ではなく母の携帯に連絡した。
『もしもし。』
「もしもし。お母さん?」
『どうしたの?変わらず、元気にやってるの?』
少しばかり近況を話して本題に入る。
電話なのに、
相手は母なのに
心臓のドキドキが声を潰してしまいそうだった。
「あ、あのさ、…前に付き合ってる人がいるって言ったじゃない?…彼を…紹介したいの。…彼も挨拶にって言ってくれてるし。…出来れば早い方がいいんだけど、…今週はダメかな?あ、もちろん…お父さんにもいてほしいの。」
母の相槌と反応をほとんど無視して言いきった。
『ええ!?あ、あ、そうなの!?今週!?ちょっと急ね。でも待って、今お父さんに聞いてみるから。』
母は興奮気味にそう言って、私に待つように言った。
けれどしばらくして、
『ごめん、ゆい。ちょっとしたら掛け直すから。』
「…お父さん、何か言ってるの?」
『ん?あ、ああ、気にしないで。驚いてるのよ。すぐに掛けるから。』
母は電話を切ってしまった。
「すみません。掛け直してくるそうです。」
部長にはそれだけ言って、キッチンに立った。
電話を一度中断したことが私の心を重たくする。
…父が何かを言っているのは明白だった。
お父さん…話し…聞いてくれるかな…。
すぐに掛け直すと言って、もう10分もたってしまい、食器の後片付けも終わってしまった。
部長は何も言わないけれど、困った顔に見えるのは気のせいではないと思った。
最初のコメントを投稿しよう!