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越石と向き合って生を二つと枝豆だけを注文した。
それが届くまで、黙って待った。
テーブルにグラスが置かれると、低い位置でグラスを合わせた。
「…いつまでそんな顔してんだよ。」
「…え。」
「…先週、西島部長をお前の家に連れてったのは俺だ。」
越石が目を見開いた。
「…部長は何も言わねーよ。けど、俺は…俺にはわかる。…やっちまった事は、もう消せねーよ。後悔してるなら…態度で示せよ。そんな顔してる場合じゃねーぞ。」
「…え、…あ。」
「あ、態度で示せって言ったって、何かしろって訳じゃねえよ。…何もしないのもその内の一つだからな。」
越石は目を伏せていた。
「…年上の女に惹かれるなんて、男なら誰にだってあることだろ?」
俺は笑って見せた。
越石が顔を上げて俺を見る。
「…高嶺の花だって…わかってたんです。なのに…背伸びし過ぎて、もしかして触れられるかもしれないって勘違いして…。彼女…部屋を出る前に、俺に頭下げたんです。…あんなことした俺に…。」
あの時と。
俺の時と一緒だった。
俺にありがとうと言った室井。
「…それが彼女だ。そんな彼女がお前のそんな姿、望んでるとは思わねーけど?…自分の気持ちにケリ…つけろよ。前みたいに、前と何も変わらないことが、彼女を安心させると思うけどな。」
越石が黙った。
「何だよ?」
「…成瀬さんて、そういう経験あるんですか?」
「はあ?…ね、ねえよ!!」
「…そうですか。けど、何となくスッキリしました。」
越石の顔が少し晴れたか?
「…今日、成瀬さんの奢りですよね?俺、腹空きました。頼んでいいですか?」
晴れたみたいだ。
「ああ。一応給料日前だからな。食い過ぎんなよ。」
…先輩面するのも
たまにはいいかもな。
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