約束

8/30

2213人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
時間からして… 部長かもっ。 私が美咲と目を合わせると、 「ご主人様がお帰りね。」 美咲はいたずらっぽくニヤリと笑った。 私もその顔に笑顔で応えて、玄関に向かった。 私がいる時、部長が自分の家のインターホンを鳴らすのは珍しくない。 …私に出迎えて欲しいから。 鍵を回して、ドアを開ける。 「おかえりなさい。」 ひょこっと顔を出すと 「…あ、ごめん。俺。」 「…あ、あ、えと、ごめんなさい。…部長かと思って。」 …成瀬さんだった。 成瀬さんをリビングに通して、美咲が笑う。 「ゆい、ザンネーン!」 「悪かったな、俺で。」 「悪くないよ。面白いだけ。ゆいが抱きついたりしなくて良かったわ。」 「…部長、いつもああやって出迎えられてんだな。」 そう言って、成瀬さんまで笑った。 「もう、二人とも…笑い過ぎ。」 二人に麦茶を出していると、またインターホンが鳴る。 「今度こそ、ご主人様だよ。行っておいで。」 美咲が玄関を指さして言った。 玄関に出向いてドアを開けると、今度はちゃんと顔を確認する。 「おかえりなさい。」 「ただいま。」 本物の笑顔に胸の奥がキュンと縮む。 「おみやげ。」 部長が小さな紙袋を差し出した。 中には小さな包み。 …紅茶だ。 『ハニーストロベリー』 袋を取り出すと、ほんのり甘いはちみつの香りが私を包む。 …キスしたいけど… 今は…我慢ね。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2213人が本棚に入れています
本棚に追加