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部屋の玄関で俺が鍵を開ける。
ドアを通り抜けると同時にゆいの口からこぼれるのは
「ただいまー。」
その言葉を聞いてから俺も言う。
「ただいま。」
ゆいはすぐにキッチンに入る。
「秀一さん、お疲れさまでした。コーヒー入れますね。」
ゆいは慣れた手つきでコーヒーメーカーをセットした。
パタパタと音を立てるスリッパの音が、たった一日聞かなかっただけで懐かしく、愛おしいものに思えた。
「…ゆい。朝は風呂に入ったか?」
「…え?あ、はい。入りましたよ。秀一さんは?」
「俺は入ってない。夜更かししたからな。」
「…森田部長とですか?」
「…ああ。」
夕べのことはゆいにも話そうと思っていた。
だけど、
それより先に。
「あの温泉の効能、知ってたか?」
「…うーん。美肌効果は覚えてますけど、あ、あと、関節痛にもいいとか!」
「…美肌効果…あったかな?」
ゆいの後ろに回って、首元にキスをしながら抱きしめた。
心なしかまだ温泉の匂いが残っている気がした。
「…欲しいな。」
「…コーヒー…すぐに出来ますよ…。」
俺が欲しいのはコーヒーなんかじゃないことは
ゆいだって知っているはずだ。
ゆいに口づけしながら、コーヒーが落ちる小さな滴の音を聞いていた。
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