序章 我ハ追想ス

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*********** フィリピンのマニラは文字通り阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。 補給は断たれ、マラリアの蔓延する中で味方の兵士は一人また一人と倒れて行く中で、とうとう最後に残ったのは神の加護を受け病気を退ける『神降ろし』の楓と百合率いる『天強』だけとなっていた。 しかし、如何に『神降ろし』の率いる『天強』と言えど、残った100人にも満たない兵士では戦局を変えるのは最早不可能。 それでも、戦いを止めようとする隊員は誰一人として居なかった。 偉大なる先人への礼儀か、日本兵士としての矜持か、はたまた故郷に残した妻子の為かは解らないが、ともあれ100にも満たぬ兵士は全員が戦う覚悟を決めていたのだ。 「私が敵陣に単騎突撃し深く斬り込みながら囮となる、各員は私を構わず後方より突撃し、私ごと釣られた米兵を殲滅すべし。」 長い黒髪を後ろで束ねた紺色の軍服を身に纏う、かの涼華を思わせる容姿を持つ少女、『天強』の隊長である砂原 百合は部下達に最後の命令を下した。 己が囮になり敵陣に深く斬り込んだ後、釣られて前に出た米兵に集中放火を浴びせ、最後に一矢報いようという悲壮な最終手段とも言える、あまりにも自滅的な作戦だった。 皆、己の隊長の意志と覚悟を知るからこそ、誰一人として異を唱える者はいない。
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