序章 我ハ追想ス

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まるで爆撃機の縦断爆撃を受けたかのような空を赤く染める砲撃は瞬く間に『天強』を覆い尽くし、一人また一人と歴戦の隊員たちが倒れてゆく。 既に満身創痍であった戦車班は耐えきれず爆発炎上し、最早打撃を与える手段すら失ってしまった。 帝国陸軍を支えてきた『天強』 その歴史に、いよいよ終わりの時が近付いて来ているのだ。 「ぐっ…あ…か…え…で…」 遂に米軍の放つ機銃掃射が百合を捉え、その身体を貫く。 手にした砲は破壊され、その身体を鮮やかな赤で濡らし、片膝を付きながらもサーベルを抜き前進する百合だが、最早戦闘継続は誰が見ても不可能だ。 まともに動けぬ状態になった百合は次第に突撃する部隊から落伍していく。 それでも、団員たちは落伍する百合に構うことなく前へ進む。 そうすることが隊長の望みだと、理解しているからだ。 凄惨極める戦場は、最早一方的な虐殺と呼ぶことすら生易しい地獄と化しており、最早残るのは先頭に立ち攻撃を食い止めながら進む楓と、それに続く残雪を含む僅か25人の隊員、そして後方で必死に追いすがる百合だ。 そんな『天強』を待ち受けていたのは掃討の為の歩兵部隊で、無数の銃口が向けられている。 僅か残り27人の部隊。 だが、米軍の銃口はたった27人で虫の息になった『天強』に止めを刺さんばかりに火を放つ。
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