第1話

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テレゾポリスの風に揺られて ** Junto a briza de Teresopolis ** プロローグ 機体が傾き、の中に街の明かりが浮かび上がってくる。紫色の空と、宝石のように光る、未だ明けきっていないサンパウロの空からの景色。一つ一つの窓に、見知らぬ国で生活をする人たちの暮らしがある。光は、まさしく浮かび上がってくるという表現が適切であるが如く、巨大な宝石箱の中に無造作に放り込まれた無数の宝石のように、悠香の目に映った。胸は、感動と期待でいっぱいだった。 ブラジルは日本から約二十四時間。ちょうど裏側の、南半球に位置する南米最大の国である。真冬の日本から真夏のブラジルへの旅、今日からはもう必要のない、腕に抱えたままのコートが、意味もなく重く感じていた。 三月九日。午前五時四十分。到着した街は、まだ眠りから完全には覚めてはいない。 サンパウロ国際空港、リオ・デ・ジャネイロと並ぶ、ブラジル最大の二大空港の一つは、ブラジルの玄関ともいわれる空港である。そこからブラジルの国内、そして南米のあらゆる地域への接続便が一日に何便も往復する。その巨大空港の到着ロビーでは、人々が到着出口から出てくる旅客を一人一人見つめ、その中に知っている顔を見つけようと必死になっている。 時々起こる歓声、抱き合う人々。空港はいつも再会と別れ、哀しみと喜びの舞台となる。 喜びを分かち合う人々の横を素通りして、悠香はローマ字で“Sta. YUUKA NISHIZAKI”と書かれている紙を持った男性の元へと歩み寄る。その瞳には再会も別れもない、ただ新しい道への第一歩となる今日という日だけが映し出されていた。 悠香は深呼吸で改めて気合を入れ直し、真っ直ぐと顔を上げ、 「ユウカ・ニシザキ、ムイト・プラゼール(西崎悠香です。はじめまして)」 と見知らぬ男に挨拶をした。男は、 「メウ・ノーメ・エ・ホベルト、ムイト・プラゼール(私の名前はロベルトです。はじめまして)」 と応え、ホッとした表情をした。この人も、緊張していたのだと、悠香の顔に安堵の色が広がった。
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