アメ

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 アメはもうずっと、心から笑うということを忘れてしまっていた。  それどころかアメを包む悲しみの原因と共に、自分の本当の名前も、帰る家さえも忘れてしまっていたのだ。  アメはいつも、まるでクジラの皮のような黒いごわごわの、丈の長い業務用の大きな雨合羽を着ていて、黴臭いレインハットを目深にかぶっていた。  アメが行くところ、どんよりとした黒い雲が湧き上がり、アメの抱えきれない悲しみが、遥かその上空で形となって、次々と地上に降り注いでいるかのようであった。  そうして自分のことを、いつしかアメと名乗るようになったのである。  しとしとと降る雨の中、アメが動かずにじっと突っ立っていると、アメの気配はすっかり消えて、灰色の雨模様に溶け込むのだった。
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