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―あなたが許したいと思っている事は何ですか?― 渡されたアンケート用紙の一番上に書かれた項目。その質問を見た瞬間、高山美雪の手は止まった。 「許したいの?、許せるの?」美雪は、自分へ問いかけた。 答えは一瞬で浮かび上がる。答えはNO。 許せる訳がなかった。 許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。 その言葉だけがひたすら頭の中を回る。 「高山さんどうでしょうか。アンケートの記入はできましたか?」 女性スタッフが近寄ってきた。 美雪は申し訳なさそうに頭を下げた。 「いいえ。まだ」と答え、一度は机に置いてしまったペンを再び持ち上げた。 「いいんですよ。最初に来た時は、みんなそうです。許す事に慣れてないですからね。じゃぁ、違う質問を用意しているので、そちらで試してみましょうか」 「は、はい」 美雪の返事を聞くと、その女性はすぐに別の用紙を渡した。 ―あなたが今一番許せない人は誰ですか?― ―どうして許せないのですか?― この質問なら答えはすぐだ。先ほどとは違い、美雪のペンの進むスピードは速かった。 ササっと書き終え、静かにペンを置いた。 「書けましたか?」 先ほどの女性がまた声をかけた。 頷いた美雪を見て、その女性はニヤっと笑った。 「じゃぁ、高山さんこちらのお部屋で少しお話を聞きますね。その後、施術を行いますので」 美雪が訪れたのは、小さな雑居ビルの四階にある「許し屋」というお店。その名前だけでは、何をするのかも想像のつかない店名だった。ただ、ビル下でその看板を見かけた時、『許し屋』という文字の下に書かれてあった『あなたの怒り、ほぐしませんか?』の言葉が美雪の身体にスーッと入ってきた。そして、なんとなくそのままそのお店の門をくぐってしまった。値段はもちろん何をするのかも書いてない、ただそれだけしか書いてない。冷静に考えれば怪しい看板だ。でも、その時の美雪には、それが怪しいなど思う隙もなく、ただただ心が動くままにその店の中に入ってしまっていた。
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