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アンケートを記入したあと通された部屋は、間接照明でやや薄暗く、部屋の中心にはベッドが置かれていた。部屋はアジア風の装飾が施され、バラの香りが奥の方に秘められたような甘いアロマ独特の香りが充満していた。
先ほどのアンケートでいきなり、『許したいこと』や『許せないこと』を聞かれた瞬間は戸惑ったが、通されたリラクゼーションスペースの様相を見て、少し美雪は安心した。『ほぐしませんか?』と書かれていた看板を見て、なマッサージ屋さんだろうと美雪は思っていたのだ。
「じゃぁ、そこのベッドに腰掛けてもらえますか」
美雪は言われた通り、その場に腰をかけた。
「それでは、そのまま少しお話を聞きますね」
「はい」
女性スタッフは部屋の端に置いてあった椅子をベッドの近くに寄せ、やや向かい合わせになるような形で美雪の前に座った。
「まずは私の自己紹介から、佐川陽子と申します」
陽子は明るい笑顔で挨拶すると、名刺を渡す。
沙織は名刺を受取りながら、これから暫くこの人と話をしなくてはいけないのかと落胆した気持ちになっていた。
どうにも美雪の集中力はそちらに向かいそうになかった。甘い香りと柔らかな暖色の照明の部屋に入ってから、何故だか心の緊張が急に緩み、美雪はそのままベッドに横たわりたい衝動に駆られていた。
「え~それでは早速、高山さん、高山美雪さんね。普段は皆になんて呼ばれてるの?」
「会社では、高山さんとか高山ですかね。友達はそのまま美雪か、みーちゃんとか、、そんな感じです」
「どの呼ばれ方が好き?」
「そうですね……一番本当の自分に戻れる感じがするのは、みーちゃんかな。幼馴染とかもそう呼ぶし」
「そう、それじゃぁ、今日から私もみーちゃんと呼ばさせてもらってもいいかしら。ここでは出来るだけリラックスして欲しいから」
「はい」と頷くものの、未だに何をする店なのかは分からない。
美雪の中には様々な疑問が湧いてしまい、続く陽子の質問が全く聞き取れなくなっていく。
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