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自分の考えを瞬時に見破られた美雪は目を合わせないように、視線を下に向け、ゆっくり頷いた。
「ないないない。ないってば~」
陽子は更に大袈裟に笑う。そして、こう付け足す。
「そんな事ないから心配しないで。私、この仕事趣味でやってるようなもんだから」
「え??、趣味って、そんな。それでも色々お金とかかかるし、そんないい加減な感じでやってけるんですか?」
「うん。元々別の収入もあるし、それにこの間宝くじも当たったし。私ね、思った事何でも叶うたちなの。だから実は、趣味でやってる程度のこの仕事もね、あまりお金の事考えなくてもちゃんと回ってるのよ。だから、ここに来たからには、あなたはあなたの心配をして。許したいんでしょ?」
「許したいって言うか……」
「許せないか。今は」
瞬時に上乗せした陽子の言葉は、とても慣れた言い方だった。
「はい、許せません……」
「いいの、いいの。今日はね、思いっきり気持ちよくなって。身体ってね、面白いの。一度身体に怒りが溜まってしまったらもうどうしようもないのよ。まずは、この怒りをね、体外に放出するのよ。許すのは、それから。それからだから。今日はもう横になって、このガチガチになった体をほぐそうか」
「え?」
「何?」
「あの、ここって何屋ですか?」
「だから、『許し屋』よ。あなたが許せるようになるのをお手伝いする。それが私の役目。私が産まれてきた役目」
―産まれてきた役目?―
先に陽子が話した言葉は頭の上を通り過ぎて行き、最後に残したこの言葉だけが鮮烈に美雪の頭の中にこだまする。
陽子はキョトンとしている美雪を気にする事もなく、服を脱ぎうつ伏せになるように促し、退出して行った。
先程までは、このベッドで横になりたいと思っていたのに、いざその状態になったらなったで、落ち着かない気持ちになったが、促されたままに準備をした。そして、彼女に身体を預けていいものかと悩みながらも、美雪は陽子が来るのを待っていた。
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