2/7
60人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「ねぇ、みゆねぇ、ちょっといいですか?」 翌日の会社。月末の伝票作業を黙々とパソコンで処理している美雪の左側デスクから、後輩幸江(さちえ)の声。 処理の手を休めて、ゆっくり幸江の方に体を向ける。 「キリちゃんの二次会。着ていく服ってもう決めました?」 「あぁ。」 髪をかきあげながら発せられたその一言は、あからさまに不機嫌そう。月末に近づけば近づく程、美雪の不機嫌さに拍車がかかるのは、恒例のこと。美雪の表情から幸江の中に一瞬の躊躇いは過ぎったが、月末に機嫌が悪いのはいつもの事と思い喋り始めた。 「えっとだから、二次会の服の事なんですけど。私、実は友達の結婚式とか出るの初めてで。どうしようかなって、悩んでて。披露宴だったら結構フォ―マルじゃなきゃいけないと思うんですけど、、二次会ってどんな感じなんですか?雑誌見てても、分からなくって。張り切り過ぎてても嫌だし、、、かといって自分だけカジュアル過ぎたらどうしようって思ってて、、、。」 幸江の特徴的な甘ったるい声が美雪のイライラに拍車をかける。すごく悩んでいる幸江の言葉を退け、「別になんでもいいんじゃん?二次会なんだし。」と、すぐにでも作業に戻りたい気持ちを全面に出し答えた。 しかし、幸江は、「え~、、でも。。何でもいいじゃぁぁ」と、その言葉では納得しない様子。 たとえ、月末の作業が押していても、幸江が困っている時には手を差し伸べてあげる優しい先輩の一人である美雪。 「ねぇ、先輩、、そんな冷たくしないで、ちょっとだけ。相談に乗ってくださいよ~。」そうやって甘えた感じで美雪をつつくのは、あくまで普段通りの事だった。 だけど、今日の美雪には、いや、美雪にとってその相談は、彼女の地雷を踏む行為そのものだった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!