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「あなたに私の何が分かるって言うんですか。」
「全ては分からないわ。でも、聞いてる限りでは、真剣にアイドルになろうとしている姿とは違うのかなって、疑問が湧くわ。ご両親が心配されている理由はそこにあるような気がするけど。」
「結局、あなたも両親の味方をするんですね。」
「そんな事はないわ。」
「いや、そんな事ない。結局、あなたも私がアイドルになれないって思ってるんだ!」
「それは違うわ。そんな風に捉え違いはしてほしくはないんだけどな。」
「いや、絶対にそう思ってる。私、もう帰ります!、来るんじゃなかった!、本当に、頭にくるわ!、せっかく一ヶ月も待って来たのに。」
「勘違いさせちゃったか。残念だな。」陽子は、きららの膝の上に手を添えた。「もし来れたら、来週くらいに、また話を聞かせてもらえないかしら。」
しばらくの沈黙が続いたが、最終的にきららは、「多分来ないと思います。」とだけ答え、席を立ち上がった。
その瞬間、「そうだった!」と、思わず大きな声を出した陽子は、急いで自分のデスクに戻ると、封筒を探し始める。
帰ろうとしていたきららは、呆気に取られたようにその姿を呆然と眺めていた。
「佳菜子ちゃんって、前うちに相談しに来た子がね、今度渋谷の大きな会場でワンマンするって、チケット送ってくれてたの。今度の木曜日の夜なんだけど、もし都合がよかったら、あっちで会わない?」
「行くわけないじゃないですか。」
「そっかぁ。じゃぁ、もし気が向いたらでいいから、一枚チケット渡しておくわね。」
無粋な顔をするきららとは対照的に、陽子はご満悦の笑顔で「はい。」と手渡した。
眉間に皺を寄せないように作り笑顔を続けていた有美は、バタっと閉まる扉の音が耳に届いた瞬間、表情が一変し、バサっとソファーに倒れこむ。
「最近多いよね~。セミナーで言われたまんま夢が実現すると思っている子。」
その時、閉じたはずのドアがスーっと開いている事に気がついた陽子は、「うん」と眼だけで同意しながら、有美の言葉がこれ以上にならにように、「しー」っと、口元に手を当てる。
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