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会社を辞めると決めてから、初めての休日。きららはまた許し屋に向かっていった。 大きな決断を下したその表情は暗く、もの悲しげな顔だった。 許し屋の中では、大きなテーブルを囲んで、谷と柳原が陽子と談笑中だった。 そっとリビングに姿を現したきららを見つけると、陽子は一目散で駆け寄っていく。 「きららちゃん!、来てくれたのね。それは、一歩踏み出したって事かな?」 陽子はきららのもの悲しげな顔を気にすることなく、嬉しそうな顔でそう言った。 「そうじゃないですけど、、、。」 「それじゃぁ、まだ会社の事は悩んでるの?」 「それは、辞める事にしましたけど。」 「じゃぁ、一歩進んだんじゃない。おめでとう!」 「おめでとう!じゃなくて!」と出した声は、とても大きく、談笑中だった谷たちも一気に静まり、二人の様子に目を配る。しかし、きららは、そんな注目が集まっているとは気が付いていないようで、声のボリュームは更に上がったまま、陽子をまくしたてるように、言い放つ。 「私がメール送ったのに返事くれなかった。ずっと待ってたんですよ!待ってたのに返ってこないから、私、自分で決めちゃったじゃないですか!辞めるって。すごく不安だったから、相談したかったのに。なんで、メールしてくれないの?」 怒りで目の瞳が小さく揺れているきららを見つめながら、陽子は小さな声で言う。 「自分で決めて欲しかったんだ。だから、返事しなかったの。」 「え?、見てたんですか?、見てたのに、返事しなかったんですか?」 「もちろん、見てたよ。一瞬、すぐ返事しようとしたけど、やめた。だって、あの時、私『会社辞めれば?』って伝えてるからね。きっと、きららちゃんは、私だったら絶対賛成してくれると思ってメールして来てるんだなって思ったから。」 「それなら、メールしてくれればいいじゃないですか。私すごく苦しかったし、悩んでたんですよ。」 「だって、そんな大事な時間だからこそよ。自分で決断を下す事がなにより大事な事なの。」 「どうして?」 「だって、そうじゃない。一人で選んだ道なのか、それとも誰かに勧められて選んだ道なのかで、全然これからが変わるの。」 「分かんないそんなの全然。あの時、私があんなに辛い思いをしてるの分かってて、それで無視するなんて。」 「僕は分かるけどな、陽子ちゃんの気持ち。」
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