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テーブルでじっと見守っていた谷が二人の言葉を遮る。「まずは座りなさい。」と、玄関先で言い合いになっている二人を手招きし、テーブルに腰を降ろしたところで、谷はまた話し始めた。 「誰かのアドバイスで選択すると、結局人のせいにしちゃうんだよ、人って。何か辛い事があったりすると、あいつのせいだ、こいつのせいだってね。今回の事も、陽子ちゃんのアドバイスがあなたの決断よりも大きな存在になれば、やっぱりあなたは何かでつまづいた時に、きっと陽子ちゃんのせいにすると思う。でも勘違いしないでくれよ。陽子ちゃんは自分のせいにされたくないから、メールを返事しなかったわけじゃないんだ。人のせいにしてしまうと結局、あなたの物事が上手くいかなくなる。それが分かっているから、陽子ちゃんは返事しなかったんだと思うよ。」 「そんなのただの言い訳だわ。メールをしたら返事をするって、大人の礼儀ですよ。社会人なんだし。」 「常識的には、君が正しいかもしれないね。でも、ここは許し屋だよ。陽子ちゃんは、あなたが許せるようになる為に最大のサポートをしてくれているんだよ。その為には、常識に沿わない方がいい事も沢山あるんだよ。」 「でも、、」 「でも、いいじゃないか。君は自分で選択したんだろ。会社を辞めるって選択を自分で出来たんだろ。すごいじゃないか。」と、言うと、谷は褒め称えるように拍手した。 その谷の拍手につられて周りも拍手をし、リビングの中は手を叩く音で一杯になる。 「でも、、、私、、、これから、どうしたらいいか分からない。一応親にも言ったんです。会社辞めるって。そしたら『お前なんかを雇ってくれる場所は他にないぞ!』とか、『馬鹿か。』とか言われて、三二歳だし、資格だって持ってないし、正社員で働いたこともないし。」 「それはこれから順に決めればいいじゃないか。そんな焦る必要はないよ。」 「そうよ、谷さんの言う通りよ、きららちゃん。」と、合いの手を入れる陽子の声と重なるようにして、「こんにちは~」と玄関先から元気な声が聞こえた。 「誰だろう?」と、みんなの視線は、玄関の方に移った。
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