20人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
現れたのは、大きな花束を抱えた明智密香だった。この間ライブで会ったばかりだけど、こんな自分の日常に芸能人がふっと現れてくる事にきららは驚いた。しかし、陽子は当たり前の日常のように受け入れているし、密香自身もごくリラックスしたような雰囲気で、その場に溶け込んでいく。
「あ~、谷さん!久しぶりです~。元気ですかぁ、なんか益々若くなられて。」
「佳菜子ちゃんこそ!、昨日も見てたよ、テレビ。大人気じゃないかぁ。すごいな。」
「それほどじゃないですけど、、なんか、自分の事じゃないように思えたりはします。なんかちょっと、周囲のスピードに自分がついていけなくなる瞬間があるって言うか。」
「え?、芸能人なんですか?」
ちょっと間の抜けたようなニュアンスで柳原が呟く。
「知らないのか、柳原。佳菜子ちゃんは、明智密香って言う名前でやってる歌い手さんなんだよ。」
「え?、明智密香?歌は知ってるんですけど、、え?、明智密香?」
突然登場した明智密香に柳原の頭の回路はまだ繋がっていないよう。
「初めまして、明智密香です。本物ですよ。」
茶目っ気たっぷりに挨拶する佳菜子に、陽子と谷は大爆笑だ。
「すいません、僕、全然気が付かなくて。」
「いやいや、、そんな、、、。って言うか、本当に全然私気が付かれないし、自分がこういう風にテレビに出るようになって思ったんですけど、意外に歌手って曲や声は覚えられても、顔まで気に留められてないから、ラッキーだったなって思うんですよ。普段も全然電車使えるし、誰も自分に気が付かないから、過ごしやすいなぁって。」
「でもな、すごいじゃないか~。こんな場所から、有名な芸能人が出るなんてなぁ。こんな場所なんて言ったら、陽子ちゃんに失礼か。」
「全然失礼じゃないわよ、谷さん。本当にこんな怪しい場所に、今をトキメク明智蜜香ちゃんがやってくるなんてね。」
「あ!陽子さんが初めて私の事、芸名で呼んだ!どこにいっても佳菜子ちゃんなのにぃ。」
「え?そっちの方が良かった?佳菜子ちゃんより。」
「そんな訳ないじゃないですか。芸名で呼ばれたら、素直になれなくなるしぃ。」と、言った後、「あ、忘れてた。」と小さく呟いた佳菜子は、陽子の座っている場所に行き、抱えてきた大きな花を渡す。
最初のコメントを投稿しよう!