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「そんな事ばっかりじゃないよ。このままずっと私は、一人なのかなって不安になるし。それに、役職が付けばつくほど、窮屈な事って増えるんだよね。部下の指導と上司の調整。間に挟まれて、てんやわんやよ。だからね、良いのかな、このままでって、よく思うよ。仕事と家の往復ばっかりしてて、それが、これだけが、私の人生かな?なんて、思ったりして。」 「そんな感じかな?なんか、有美ってさ、独身謳歌してて、キャリアウーマンって感じでさ、他の同世代よりも若く見えるし。」 「そんな事言ったら、則子のがでしょ。子供二人産んで、四十代でそのスタイルキープ出来るって、すごいよね。私も、そんな奥様になりたかったよ。こっから、結婚して、子供産んでってなぁ。既に考るだけでも、頭が壊れそうよ、私。」 「奥様、か。」 有美が何気なく言葉に挟んだ「奥様」の一言で、急に則子は黙り込んだ。そして、突然遠くを見つめるような表情をした則子にかける言葉を失い、賑やかだった車中は一瞬にして、暗く沈んだような雰囲気になった。 二人の沈黙は続いたまま、高速の手前にさしかかった。その信号が赤になった時、ようやく則子が口を開いた。 「そう言えば、今、うちらは江ノ島に向かってるんだよね。そしたら、やっぱりあれだよね?」沈んでいたように見えた則子だったが、突如出した声はさっきと同じように元気な声だった。則子の言うあれの意味が分からず、「あれ?」と、首を傾げている有美をよそに、則子は、ささっとカーナビのディスプレイをタッチし、車内にはあの曲がかかる。 「あれって、サザンか。」 車内に「C調言葉にご用心」のイントロが流れた瞬間、有美にも則子にも笑顔が戻った。 「普段のストレス発散!、今日は、独身に戻って精一杯遊ぶぞ!。」 そう思いっきり叫んだ則子の車は、気持ち良く高速のゲートを通過して行った。
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