116人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の言葉に、“まだあるのか” とでも言いたいのか彼女の顔が動く。
顔を上げてようやく俺と目を合わせてきた。
……まるでその怯えた眼差しに、俺自身が動揺してしまったけど無理やり言葉を続けた。
「看護師たちの会話を偶然聞いてしまったんだけど、」
「っ!」
「数ヶ月前、麻衣ちゃんは毎晩のように病院を抜け出していたんだって? しかも以前から眠れなくて、睡眠薬を少量だけど貰っていたって? どういうことだい?」
少量でも “散りも積もれば山となる” ということわざがある。
そのとき俺はピンときたんだ。
そして、まさかという思いが拭いきれなくなった。
確かあの人……
森先輩……。
麻衣ちゃんが夜中抜け出していた時期と、森先輩が自殺した時期が同じだったんだ。
しかも森先輩の自殺の死因は、睡眠薬の多量摂取となっている。
それは部屋が密室で、その日……森先輩が誰かと会っている様子もなかったからだ。
遺書は見つかったけど、自分の部屋のパソコンに残っていたものだそうだ。
だから警察は、知人に簡単な事情聴取だけを取り “自殺” でその事件は片付けられた。
後から海にそう聞かされた俺も、何の疑いをもつこともなく……時間が過ぎていったという訳だった。
だけど今考えたら、どこか腑に落ちない。
そもそも、あの森先輩が自殺なんかするか?
最初のコメントを投稿しよう!