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「いえいいんです。この場所は静かだから、色々と思い出してたんです」
「思い出してたって何をだ?」
「木綿先輩と出会った日のことです」
そう言われて、俺は合わせてた視線を咄嗟に逸らした。
理香は大人しそうな顔をして、たまにものすごく残酷なことを言ってくる。
本人は気がついていないのだろうけど、そのことで俺は散々傷つけられてきた。
別れた男を目の前にして、そんなこと言うなよ。
連れ去りたくなるだろう?
そんなに頬をピンクに染めて、俺のことを考えてたっていうのかよ?
全くこのお嬢さんは、残酷だな。
俺はこの真実を片付けたら、日本を離れることにするよ。
いつまでも想っててごめんな?
「ところで話って何ですか?」
ふと我に返ると、爪先立ちで俺の顔を覗き込んでくる理香。
サラサラの髪の毛が俺の頬に触れてドキドキする。
「ああ、それは俺についてくれば分かるよ」
1歩後退りをして、俺は病院の建物に足を向けた。
このままだったら、無頓着な理香の態度に流されてしまいそうになる……。
……ヤバい。
新年早々、過ちを犯すのはごめんだな。
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