2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「終わりにしよう」
俺はこの時、人生で初めての抵抗を見せた。
「何か言ったか」
ただ生きることさえ罪と言われ、幼少の頃より暴行を受け続けてきた。
だが、暴行を受けてきたといっても、俺の体には目立つ傷などない。
暴行の後には必ず傷の手当と暖かい食事が与えられた。飴と鞭の容量だ。
「もう、終わりにしよう」
物心がついた頃には既に地下牢で鎖に繋がれていた俺は、ただ年を重ねるだけの玩具のようなものだ。
「終わる?」
「……ああ」
その俺が今、何故抵抗する気になったのか。
それには理由がある。
もう十年も前から決めていた。十三を迎えたあの日から。
「終わらせる。俺自身の手で」
どうせ力を手に入れたのなら、自分の望むことを叶えようと、心に決めていた。
俺はずっと終わらせたかった。この地獄とも呼べる現状から逃げ出してしまいたかった。
だから、今。
あれから一年を経て、実行する。
年に一度だけ鎖から解放される今だからこそ、できることだ。
自身の手で、命を絶つ。
「何処の烏も黒さは変わらぬ」
この世界に未練などないし、死ぬことに何の感情もない。
俺に可能な選択は二つに。生きてとどまるか、消えてなくなるか。
しかし、元から死んでいるのならば、残された選択は?
「止めろっ」
「遅い」
俺は暴行を受ける前に煤竹――烏の羽扇子――を喚び出し、命を絶った。
最初のコメントを投稿しよう!