生きてとどまるか、消えてなくなるか

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「終わりにしよう」 俺はこの時、人生で初めての抵抗を見せた。 「何か言ったか」 ただ生きることさえ罪と言われ、幼少の頃より暴行を受け続けてきた。 だが、暴行を受けてきたといっても、俺の体には目立つ傷などない。 暴行の後には必ず傷の手当と暖かい食事が与えられた。飴と鞭の容量だ。 「もう、終わりにしよう」 物心がついた頃には既に地下牢で鎖に繋がれていた俺は、ただ年を重ねるだけの玩具のようなものだ。 「終わる?」 「……ああ」 その俺が今、何故抵抗する気になったのか。 それには理由がある。 もう十年も前から決めていた。十三を迎えたあの日から。 「終わらせる。俺自身の手で」 どうせ力を手に入れたのなら、自分の望むことを叶えようと、心に決めていた。 俺はずっと終わらせたかった。この地獄とも呼べる現状から逃げ出してしまいたかった。 だから、今。 あれから一年を経て、実行する。 年に一度だけ鎖から解放される今だからこそ、できることだ。 自身の手で、命を絶つ。 「何処の烏も黒さは変わらぬ」 この世界に未練などないし、死ぬことに何の感情もない。 俺に可能な選択は二つに。生きてとどまるか、消えてなくなるか。 しかし、元から死んでいるのならば、残された選択は? 「止めろっ」 「遅い」 俺は暴行を受ける前に煤竹――烏の羽扇子――を喚び出し、命を絶った。
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