十一

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翌日、則子は、約束通りに許し屋にやってきた。約束したから、来てみたもものの、客観的に考えてみると、どうして自分がここに来ているのか、よく分からない気持ちが続いていた。 有美の言っている事や陽子の言っている事は、分かるようで、さっぱり分からない。それが本音だった。 しかも、昨晩、一人で色々と考えてみたが、「離婚をしたいか、したくないか?」と、問われれば、やっぱりしたいという気持ちが優っていた。 だけれども、慰謝料の問題や、二度と子供に会えなくなるという事が顕になってみると、それはやっぱり回避したい気持ちが生まれていた。 有美や陽子は「幸せにしたい。」という、気持ちが大きいようだったが、実のところ、則子の本音は、少しでも印象を良くして、慰謝料の件で自分が支払うという事は、まず避けたかったし、できれば、少しでも慰謝料がもらえる状況にしておきたかった。そして、子供に対しては、二度と会えないという状況は避けておきたいと思った。それに今お金に余裕がない自分の状況では、足繁く弁護士と面会する事は不可能に近かった。「お金は、払っても、払わなくても良い。」という、有美の言葉をそのまま受け、無料でその知恵を少しでも拝借できればと、したたかな気持ちでこの場所にやってきていた。 則子が許し屋に行くと、早速カウンセリングは始まった。 「簡単で構わないのですが、今の状況をお聞かせ頂けますか。」 今回の離婚問題において、自分の不倫問題について話さずに、状況を説明するのは、いささか難しいと思ったが、出来ればその事実は、話さないでおこうと思っていた。則子は、そう思って、自分の印象を出来るだけ良い風に受け取れるように話し続けていたが、陽子は既に、有美から聞いてしまっていた情報が山ほどあった。しかも、不倫相手の高梨の奥さんまでもが、ここに相談にやってきている。彼女の口から出ている事は、どれもこれも真実ではない事が、一瞬にして分かってしまっていた。でも、陽子は一切そんなそぶりは見せなかった。
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