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「そうですか、それは、大変ですね。突然、旦那さんが『離婚したい』なんて、言い出して、さぞ、則子さんのお気持ちは辛いでしょう。」
「えぇ、もう。」まるで、そこは法定の場で、情状酌量の余地を求める被告人のような演技ぶりだった。涙を時にはにじませ、自分が被害側であるような装いを崩さなかった。
陽子は、そこに口を挟む事なく、延々と続く有美の演技のような自己説明に付き合っていた。
「そうですね。本当にそれは、辛くて仕方ないですし、則子さんに非は一切なかったんですよね。」
「はい、そうなんです。私は、何も悪くないのに、家族が勝手な事ばかり言うから、振り回されてばっかりいて。」
「そうですか。」と、言い、陽子は暫く間を置いた。
さっきまで、一生懸命自分の話を聞いてくれていたはずの陽子が、全くそれっきり何も話さなくなった事に則子は動揺した。
「どうしましたか?、陽子さん。」
陽子はにっこり微笑み返す。
「あの、則子さん。則子さんのお気持ちは充分理解できました。でも、どんな時でも、どんな事でも、自分の責任であると置き換えられないと、次の新しい世界はやってこないんです。」
「はぁ。」
「お話を聞いている限り、則子さんには、全く非がないように見受けられます。でも、ここは、『今後も子供たちと会い続ける権利を手に入れるため』と思って、家族に謝って頂くことは出来ますか。」
「え、私がですか。」
「はい。」
陽子には、自分に全く非がないようにしゃべり続けていたが、本当の事を言えば、全く自分に非がない訳ではなかった。実際、不倫をしていた事は、隠しようのない事実だ。だけど、則子にしてみれば、自分を不倫に走らせたのも、家族の責任だとずっと思っていた。ここで自分が謝るなんて、なんとしてでも、避けておきたいと思っていた。
「それは、出来ません。」
則子は考えた末、そう言った。
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