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「二度と子供と会えなくなってもですか。」
その言葉を聞くと、涙が一粒、則子の頬を伝う。
「嫌ですよね。」と言う、陽子の言葉に、則子は静かに頷いた。
「ねぇ、則子さん」
涙が頬を伝った後、全く顔を上げない則子の視線を向けるように、陽子は語りかける。そしてようやく則子の顔がこちらに向いた事を確認して、陽子は話し出した。
「嘘でもいいんですよ。嘘でも。」
「嘘?」
「えぇ、本当の気持ちで謝れなくても良いって事です。演技で謝れば良いって事です。」
「そんなのでも良いんですか。」
「もちろん、心から謝った方が良いんですけどね。」と前置きした上で、陽子は言った。
「お話を聞いている限り、謝るなくしては、一歩も前には進まないと思うんです。だから、嘘でも良いから、まずは謝ってほしいんです。」
「はい。」
「今、則子さんの目標は、離婚しても子供さんとお会い出来る環境を確保することですよね。それから、出来れば慰謝料もしっかりほしいと。」
「はい。」
「その為にだと思って、割り切って頭を下げてみてもらえませんか。」
則子は、しばらく眼を閉じ、俯いたまま考えていた。そしてようやく、「はい。」と、静かに返事をした。
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