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色紙を胸にあてて喜ぶ姿を見て、陽子は羨ましそうに言う。 「やっぱり、お子さんがいるっていいですね。私も欲しいんだけどなぁ。なんでかしら。」 その言葉を聞くと、急にあの嬉しそうな顔はどこにいったのか、則子の顔はイライラした剣幕に変わっていた。 「そんな事ないわよ。本当に、子供なんていないのが一番だって。噂に聞いてたけど、反抗期は大変だって。でも、そんな話だけじゃ考えられないくらい、こっちもイライラするのよね。」 そんなイライラを前面に押し出す則子を見ながら、陽子はまだ笑ってた。「でも、則子さん、今日一番の嬉しそうな顔しましたよ。」と、言いながら。 怪訝そうな顔をしながら、「いつ?」と、聞き返す則子。「今。サインを抱きしめて。」 「私が?、でも、これはその、子供たちがちょっと喜ぶかなって思ったから。」 「その顔が一番嬉しそうなのはどうしてなんでしょうか。」 「嫌なこと聞くわね。」と、憮然に言い放ち、どさっと、腰をかけた。 「コーヒー淹れてきますね。」と、則子が座ると同時に、陽子は席を立つ。 陽子の姿が見えなくなると、則子は言う。 「そろそろ、帰ろっか。」 「うん、でも今、陽子ちゃんコーヒー淹れてくれてるから、せっかくだから、飲んで帰りましょ。」 「そうね、でも私、コーヒーよりも水が飲みたいかも。」 「いいよ、それも持ってきてもらうから。」 給湯室に聞こえるように、有美は声を張り上げる。 「陽子ちゃん、悪いんだけど、お水も持ってきて~。」 「は~い。」 「って言うかさ、何度も聞くようだけど、この店って何?どうやって経営してるの?」 「陽子ちゃんがみんなの悩みを聞いて、それで成り立ってるって感じ。」 「なんか、カウンセリングとか言ってたけど、結構高いわけ?それって。」 「う~うん。値段設定ないのよ、ここ。払いたい人が払うっていう感じかな。」 「どういう事?」 「だから、みんな気持ちを置いてくのね。あそこにある神社コーナーの賽銭箱に。だから、陽子ちゃんも誰がお金払ってるのか、払ってないのか知らないのよ。って言うか、あの人、全然そいういう事に興味がないわよね。」 「え、そんないい加減でやっていけるの?」 「なんかね、やっていけるみたいよ。」 「へぇ~、不思議な場所よね、許し屋って。」
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