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「有美さん、全然、言いんです。私も、三十代の癖に、分かっちゃった風な事ばっかり言って、って、正直思う瞬間は自分の中にはあるんです。でも、私が気がついた真理は事実だと思うから、できるだけ、多くの人にこの事実に気がついて、幸せを堪能してもらいたいって思ってやってるだけだから。」 そう、有美を諭すと、則子の瞳をしっかり見つめて言い直す。ぎらりと睨み続ける則子の瞳を一瞬もそらすことなく、陽子は話し続けた。 「あの、則子さん、人の細胞って三ヶ月もしたら全部生まれ変わるんです。だから、三ヶ月、騙されたと思って、一緒に、幸せの方法探してみませんか。」 睨み続けている自分のことを一心不乱に微笑むような瞳で見つめ続ける陽子の姿に則子の気持ちは一瞬揺らいだ。 「三ヶ月って何よ、うちはもう切羽詰った離婚問題が山積みなのに、そんな余裕なんてないわよ。三ヶ月でうちの離婚が無くなるなんて思えないわ。」と、その真っ直ぐな瞳がどこかにいって欲しいと、蹴散らすように言い放つ。 「確かに、そうかもしれません。でも、せめて、今までの結婚生活をいい思い出にしたいって思いませんか?」 「え?」 陽子の言葉に、則子は一瞬隙を見せた。陽子はその隙を見逃さないように言葉を続ける。 「則子さん、失礼ですが、結婚してどれくらいですか。」 「今年で、十六年目です。」 「だとしたら、人生の三分の一以上は、今のご家族との時間ですよね。」 「はい、それは。」 「その生きてきた時間を思い出したくもない過去にするのは、もったいなくないですか。」 則子はうんと、悩んだ。言われてみれば、楽しかった事は山ほどある。結婚した日、二人で旅行に行ったこと、子供が出来たと分かったこと、克也や彩の誕生、お遊戯会や運動会、走馬灯のように色んな思い出が駆け巡り、涙が溢れる。
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