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「もったいないですよね。」
「はい。」
さっきまでの睨みはどこに行ったのか、突然従順に従う素振りを見せた則子に有美の方が驚いていた。陽子はどうして、魔法のようにその人の気持ちを開かせるのかと、その方法が知りたいと思った。そんな風に有美があれこれ考えている間にも、二人の会話は進んでいく。
「私は、これから三ヶ月の間で、則子さんのご家庭がどうなるのかまでは、想像出来ません。ただ、則子さんの抱えている思い出をいつでも気持ち良く思い出せれるポケットに忍ばせていく方法だけは知っています。」
「なんですか?」
「二度と会えないと、心に刻んでください。腹がたって仕方のない旦那さんも、反抗期のお子さんも、もう二度と、一生会う事はないのだと、しっかり胸に刻んで、過ごしてみてください。」
その言葉は、則子にとって強烈だった。別れる事は、自分も望んでいる事だったはずなのに、「二度と会えない。」と、言われると、急に胸が締め付けられるような気持ちになったからだ。
「二度と、、、ですか?」
「はい。」
「離婚したら、二度と会えないって事ですか?彩とも克也とも。」
「はい。」
「なんて、ひどい事を言うの。私の子供なのに。」
「実際、離婚したら、そういう可能性は十分あるんです。それは、どの家庭においても。だから、もう会えない、会わないつもりで、これからの三ヶ月間を暮らしてみてほしいんです。」
則子は、「会えない」その一言をぐっと自分の中で噛み締めてみた。もちろん会えなくなるのは、自分の本意ではないが、周りで飛び交っている離婚話を聞けば、確かに自分もそうかもしれないと、ようやく、「会えない」事実が自分の中で、現実の一つとしてすり替わっていった。
そして、ようやく「分かったわ。」と、一言呟いた。
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