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それを聞いたお兄さんは思案顔になると、商品を思い出したのか閃いたような仕草をした。
「あぁ、あれですね。あれは以前の持ち主がもう少し大きい竜車に買い換えると言ってたので、こちらが買い取る形で引き取ったものです。あれにするというのなら、此方から貸し出す竜は二足歩行のラプト種になります。『ラプト・ラーグル』という正式名の竜ですが、脚力が強く、馬以上の早さを出しますが、体を鳥のように羽毛で覆っていますので、火の取り扱いには十分注意してください」
「わかりました。それで、そのラプト・ラーグルを見てみたいんですが…できますか?」
「大丈夫…と言いたいのはやまやまなんですが、まずはその子たちの寝床を確保したほうがよろしいかと思います」
お兄さんの言ってることを理解した僕は、微笑みながらミトと二匹の子竜を優しく撫でた。
「そうですね。ほらミト、行くよ。起きて起きて」
「…んぅ~…やぁ~」
「まったく…甘えんぼなんだから。ほら、ホットミルクだよ」
「…みるく~…? …のむ」
僕の飲みかけのホットミルクをミトはゴクゴク飲んでくと、また眠りについちゃった。
「あちゃー…逆効果だった」 苦笑いしながらも、次は子竜たちに視線を移す。子竜たちは今もぐっすり眠ってて起きる気配すらしない。…これって詰んだ?
「ミトちゃんは僕がおぶるので、二匹はあなたが抱っこしてください。その二匹はあなた以外には懐かないみたいなので」
お兄さんの意見を取り入れ、僕は子竜たちを、お兄さんにミトを任せて、喫茶店を出ていく僕たち。
お兄さんはミトを背負いながらも器用にお金を払ってた。
「お店に客室がありますので、そこに寝かせましょう。幸いベッドは二つありますから」
「ありがとうございます。…そう言えば、お兄さんのお名前を伺ってなかったですね。今更ですが、私はアルといいます。お兄さんは?」
「ははは、本当に今更ですね。いえ、これは私のミスでもありますね。竜車屋トッカーナ店主、エルバス=トッカーナといいます。どうぞ、これからもご贔屓に」
そんな、ちょっと遅すぎる自己紹介を終えて、僕たちはエルバスさんのお店にご厄介になることにした。
翌日──
「竜車代の金貨3枚に銀貨5枚、ラプト・ラーグルの貸し出し料銀貨2枚、どちらも確かにいただきました。またお越しください。お待ちしてます」
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