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春の麗らかな陽気に照らされ、新芽が光り輝く草原。その向こうに見える連なった山脈には、山頂付近に濃い雪化粧が残っている。
その麓に広がる広大な森林からは動物たちの嘶く声が時折聞こえてくる。冬眠から目覚め、食料を探し回ってるのかもしれない。
空からも耳をつんざくほどの咆哮が空気を伝いながら大地へと降りかかってきた。
空に居たのは、ファンタジーで定番中の定番である“ドラゴン”だった。
空に溶けるような青い鱗に甲殻、丸太ほどもある太い脚、その巨大を浮かせる長大な翼、ワニに似通った頭に生える鋭い牙、鞭のようにしなる尻尾。
そのどれを取っても、食物連鎖の上位に位置するとすぐに判ってしまう。
ドラゴンは悠々と旋回した後、空の彼方へと消え去った。
そんな生物のありのままの姿を垣間見れるこの草原に、たった今何かが空から落ちてきた。
不思議なことに、“それ”は地面と激突する際には急速に減速し、年端もいかぬ子供がジャンプして着地したぐらいの衝撃しか起こらなかった。
“それ”は透明なゼリーのようにプルプルしたもので構成されており、黒い点が平行になるように2つ、まるで人間の目のように付いていた。
ここまで来れば感が良い人はすでにお気づきだろう。そう、“それ”の名前は──
『スライム』
──RPGゲームなどで最初に出る経験値を稼ぐためのお手軽モンスターの代表格であるあのスライムである。
赤や青といった色で親しまれているスライムだが、このスライムの色は“透明”。
どこからどう見ても無色透明なスライムはいきなり飛び跳ね、体の一部を手のようににゅーっと伸ばし、自分の体をペタペタと触りだした。
そしてプルプル震えだし、次の瞬間に有り得ないことが起こった。
「お~、転生できたぁ~! 流石は女神さま、ありがとうございます」
なんとこのスライム、口も声を発する器官も無しに喋り始めたのだ。
心なしか、点だった目のようなものも少し大きくなっている気がする。
「よ~し、これからの異世界生活、楽しんでいくぞぉ~!!」
体の一部をさっきと同じように伸ばし、天に突き上げた透明のスライムは飛び跳ねながら何処かへと行ってしまった。
はてさて、これからあのスライムにどんな出会いや別れが起こり、どんな人生?を送るのか。それは、神のみぞ知る……
「その通り♪」
…………え?
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