七十三階の男

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* それから私は熱烈な歓迎を受けた。 食べきれないほどのご馳走に上等なお酒。暖かい人々の最高のおもてなし。時を忘れるとはまさにこのことだった。 「ここの建物はどうしてあんな変な形をしているんですか?」  四軒目の居酒屋で、最初から気になっていたことを尋ねた。 「ああ、そのことか。確かに生前の世界にあったものとは随分違うから私も戸惑った。今も理由はよくわからない。だけど、ここは天国。これから新しい人生をおくるんだから、今までと同じじゃ面白くないだろう? そういうことさ、きっと」 イトウはぐいっと酒を煽った。天国の酒はどれだけ飲んでも泥酔することはないという。 「まあ前衛的な外見の割に店内は普通ですけど……」 「そりゃあそうさ。中までグニャグニャだと困るじゃないか」   そういうものなのだろうか。 「あ、それと……この店は生まれたてだから、今後も使ってあげてくれ。でないと消えてしまう」 生まれたて? 開店したばかりということだろうか。 「違う違う。本当に生まれたてなのさ。天国の建物はみんな生えてくるからね」 「そんなばかな」
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