七十三階の男

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イトウは相当酔っているらしい。口調ははっきりしているようだが、おかしなことを口走っている。 建物がはえたらそれは建物とはいえないだろう。ところが、イトウはいたって真剣に説明を始める。 「もし誰かが病院が欲しいだとか、飲み屋が欲しいだとか思ったりするとする。そしたら、どこか適当な空き地を探し、そこで目を閉じて欲しい建物をイメージするんだ。で、十分くらい念じたら目を開ける。そしたらそこに建物があるって寸法さ。実は私も以前飲食店を作ったことがあるんだが、立地が悪くてね。お客さんが来てくれず、すぐに消えてしまったよ。可哀想なことをしたなあ……」 しみじみと語る様子は嘘をついているようには見えない。だが荒唐無稽なことだということも事実。 でも、ここは天国だし……。 暇なときにでも確かめよう。大した手間も無さそうだ。 私はその後も楽しい時を過ごし、天国の素晴らしさに満足して眠りについた。
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