七十三階の男

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最近は、何でも機械に頼る時代になってきた。コンピュータは難解な計算を一瞬で解いてみせるし、携帯電話は国境の壁をものともしない。 それらは人間の生み出した文明の利器である。叡智である。 だからといって……死んだあとまで頼ることになるとは思ってはいなかったが。 *   私は交通事故で死んだ。意識も景色も一発で吹っ飛んだ。 だから死んだはず。この目の前の光景がその根拠だといえる。 四方には壁の類がなく、天井ははるか彼方に霞んで見えた。足元は色彩が存在せず、ふわふわと宙に浮いているような気分だ。 周りには自分と同じ亡者たちが、ここはどこだろうと困惑していた。 「……さん、どうぞ」  私の名前が呼ばれた。見れば、何やらむこうで手招きする者がいた。まるで病院の待合室のような雰囲気である。 人の列を掻き分け、階段をのぼる。傾斜の角度をもう少しゆるやかにして欲しかった。人影の主はいつの間にか消えていた。
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