七十三階の男

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登り切ったところには面接会場さながらの風景があった。 目の前にはパイプ椅子が置かれ、その先には長机。そこに三人が並んで座っていた。四方には壁がないが、なぜか閉鎖されているように感じる。私は無言で椅子に腰かけた。 「享年三十六。事故死か……気の毒だったな」  真ん中に座る、真っ赤な顔に立派なあごひげをたくわえた大男が淡々と呟く。いや、男といっていいどころか人間ということも怪しいところであるが。 「……生前の行いは比較的良好だな。多少やんちゃなこともしているようだが、可愛いものだ」  男は退屈そうに頭をポリポリと掻いた。ちょこんと乗せられた白い三角の帽子の下には、きっと角が生えていることだろう。 「よし、お前は天国な」  子どものころなどに死んだあとどうなるのか大人に聞いてみたことは無いだろうか。 人間は生きているときに良いことをしたら天国に、悪いことをしたら地獄に行くという。 何が「良いこと」で何が「悪いこと」なのかの基準は定かではないが、ひいき目無しに考えても自分が「地獄行き」はあり得ないだろう。天国なのは当然だと思った。
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