七十三階の男

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「どうかしましたか?」  この天使にしたってそうだ。頭上には輪、纏う純白の布、彫刻みたいな無機質な微笑。美術館に足を運べば似たようなのがゴロゴロいることだろう。 「最初はみんなそんな風に思います。無理もありません。ですが、そんなに似ていますかねえ」  私は驚いて顔をあげた。 「でも、いくら人の想像に近かろうと、ここはれっきとした死後の世界です。戻ることはできないので、大人しくここで第二の人生を楽しんでくださいね」  眉ひとつ動かすことなくそう言い放った天使が、少しだけ怖かった。 *   「いや、いくらなんでもこれは……」  さすがに、ない。 「何か?」 「何かってあんた……」  目の前にあるのは、見覚えのあるボタン。(↑)と(↓)。視線を横にずらせば、開閉してくれそうなドアが。そしてドアの上には一から百までの数字がズラリ。 「これって、エレベーター……ですよね?」 「いかにも」  あっさりと認めてくれた。素直でいいヤツである。
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