七十三階の男

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「この……」  悪魔め。こいつは天使の皮を被った悪魔だ。どうりで顔も作り物みたいで気持ちが悪い。  わなわなと震える腕を抑え、振り返って壁に拳を叩きつける。 今手をだせば終わりだ。なに、たった一つ上にいるんだ。こっそり抜け出して会いにいけばいい。こらえるんだ。  ゴン、ゴンと壁を殴る音が響き続ける。天使はそれを止めようとはせず、にこにこと笑いながら、誇らしげに胸を張った。 「それくらいじゃ壊れませんよ。なにせ最新式ですから」 *  エレベーターが七十三階に到着した。扉が開き、光が差し込んでくる。天国の光景が私の目に飛び込んできた。 「なんだこれは……」  まるでキノコのように地面から生える建物。どれもみなグニャグニャで直立しているものは一つもない。しかも、それらはとてもカラフルでファンシーな雰囲気を醸し出している。奇妙な街の通りは活気に満ちていて、なぜか空からは紙ふぶきが舞い落ちていた。  これが本当に一つのフロアなのか? まるでおとぎの国だ。ここならば、おもちゃの兵隊が行進してきても全く違和感はないだろう。 私はなぜか胸が高鳴った。童心を思いだしたのだろうか。
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