七十三階の男

9/25
前へ
/27ページ
次へ
「どうですか、天国は。お気に召されたでしょうか?」 「え。あ、ああ……」  あの浮かんでいる気球みたいなものは何だろう? それにいくつかの建物の上でグルグルと回っているのは……アンテナ? あの車はタイヤもないのになぜ走っているのだ? 「生きているときの世界とは違うので最初は戸惑うでしょうが、すぐに慣れますよ。なにせここは天国。みんな良い人ばかりです」 「その通り!」  不意に、一人の男が微笑みながら私の元へ歩み寄ってきた。 まるまると太っており、立派なあご髭をたくわえている。セイウチみたいだ、と思わず吹き出しそうになる。天使とは違って人間的な温かみが感じられた。 「新入りだね? 私はイトウだ。よろしく」  握手。腕が上下に激しく振られた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加