第五章 正邪の天秤 #2

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「そんな気配はないな。あれは気法戦士に近いが……。武道家ではない」 「拳闘じゃない? めちゃくちゃスゲーぞ、あの嬢ちゃん。素手でアレだけやれる奴は、そうはいないぜ?」  ギュレーの指摘にガダラは異議を唱える。 「いや、あの体捌きは拳闘士では無い。踏み込みも間合いも甘い。始めの合気の動きも、本物ならば足払いは必要としないはずだ。あの動きは……剣士のそれだ」 「はあっ? 意味が分からんな。剣士なら何故剣を使わない?」  ガダラの疑問も尤もだ。  剣士が剣を使わないのでは、宝の持ち腐れである。  実際、カナンは帯刀はしていた。  巫女服の中に懐刀を忍ばせている。  だが、短刀では滅陽神の剣技は真価を発揮できない。  不自然と言えば不自然である。 「そんなもんはどうでもいい~。取り敢えず、あの小娘、砂にするぞ」  ダラックは首をゴキゴキ鳴らすと、懐から筆箱程の箱を取り出した。  外箱を投げ捨てると、手には注射器が残る。  その注射器を何の躊躇いもなく、自分の首の頸動脈に打ち込む。 「ああAAa~!!!」  身体が小刻みに震え、地面に着くほど体を後に反り返した。  獣の様な雄叫びが後に続く。 「うわっ、本気だよ、このオッサン。まあ、本気ださないとヤバイか」  ガダラは自嘲するように顔を歪めて苦笑した。
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