171人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
第八章 浸蝕する希望 #2
鎖が擦れる金属音が響いた。
眼を凝らすと人が壁に鎖で吊されているのが見える。
「カナン?」
その言葉に人影はピクリと反応した。
「ガルン……?」
蚊の鳴くような声が響く。
「ガルンは……大丈夫かな?酷い事されて……ないかな。よく“見えないから”心配だよ」
少女は何時ものように微笑んだようだが、腫れ上がり過ぎた血まみれの顔では表情が見て取れなかった。
“原形”を留めていない。
見えないのは当然だ。両目はとうに潰されていた。
体のあちこちも欠けている。
ガルンはカナンの姿を見て絶句した。
その凄惨な拷問跡は、筆舌に尽くし難い。
心の底からどす黒い感情が噴き上がる。
「マズイ……」
と、呟いたのは廊下にいた無名と呼ばれた少年だった。
背中の大剣をスラリと抜く。
表情に緊張の色が出ている。
「何がだ?」
緊迫した無名の様子にラインフォートは顔を向ける。
牢獄から獣の咆哮のような絶叫が溢れ出した。
聞いた者の耳に残る、痛切な慟哭。
「これは……ちょっとヤバイかもね」
フィン・アビスが珍しく余裕の無い表情で構えた。
それを見てラインフォートの表情がこばわる。
「何だと言うんだ?!」
ヒステリックに騒ぐ男を面倒臭そうに横目で見てから、フィン・アビスは打算的な笑みを浮かべた。
「団長は、このようなケースの事前策は何か用意してあるんでしょうか?」
最初のコメントを投稿しよう!